Hope in it
冷たい夜 冷たいこの部屋。
ゼルダは冷たい柄を持って、そして冷たい刃先を自分の喉にあてがった。
うつろに薄く開けたその瞳に映るのは暗い 暗いこの部屋の景色
物心ついた時から使っている見慣れた天蓋付ベッド
お気に入りの色鮮やかなドレスを満載した衣装箪笥
―――そして、いまとなってはただの理想論でしかない帝王学を学んだ あの机。
この国の歴史 成り立ち 憲法 民族 平和 軍事 そして有事の対応
・・・いろいろなことを勉強した。自分の身体に宿る知恵のトライフォースに恥じぬよう。
「・・・」
ゼルダはフッと微笑むと喉元の切っ先を下に下げた。
目を上げる。そこには小さな窓。そこからは暮れきることのない 終わることのない夕焼け色の空。
ゆっくりと近づいて切り取られた四角い景色を眺める。
目を閉じるとそこに大きくて強大な まがまがしくてそして寂しそうな
分け合った力のトライフォース。その気配。
「ガノン・・・」
目を伏せてつぶやく。
過去の文献にもそして口伝にも。彼の復活はそのままこの世界の終りを意味していた。
不意にまた冷たい柄を両手で握り締める。目の前の切っ先は、トワイライトの光を反射しよどんだオレンジに輝いた。
始祖様から続くこの身体に宿った王女の誇り。手の甲に輝くトライフォースを示す印章。
全てが冗談のように頼りなく見えた。
目を伏せる。にじむ涙。
次第に膝が折れる。膝をつきかがみこむと石造りのひんやりとした感触が膝からじかに伝わってきた。
ガノンのうごめくような気配の元幾千もの国民たちの嘆きが叫びが耳に響く。
「ごめんなさい・・・」
ゼルダは小さくそう言うとずっと ずっとその場にしゃがみこんでいた。
「・・・」
どのくらいそうしていたのだろう。
ゼルダは薄く目を開いた。
天井を見つめる。相変わらず時間が止まったかのようなオレンジの光を差し続ける小さな窓。
何かの気配を感じて ゆっくりと立ち上がる。
窓の外を眺めそしてゆっくりと目を閉じた。
心に移るその景色は先ほどと大差ない。大差ないが。
ふいにその中に大きな光が立ち上がる。その光は荒削りでどこか危なっかしくて。想像していたものとは違うけれど。
カツ――――ン・・・
堅い床に乾いた音を響かせてナイフが床に落ちた。
ゼルダは目に涙をためながら気配の方を見つめる。
自分の物とガノンとそしてもう一つある力。勇気のトライフォース。その力の気配へと。心の目を向けながら。
ゼルダは目を細める。不器用なその光は時に小さくなったり弱々しくなったりするけれど。それでも必ず大きく輝きを増すものであった。その光はまるで不安な気持ちを押しのけるようにこちらの心に入り込みそして大きくふくれあがってゆく。
「リンク・・・あなたもまた復活したのですね・・・」
ゼルダは小さくつぶやいた。目には先ほどとは違う涙。
足元に落ちたナイフを拾う。そして近くに置いていた布袋に丁寧に入れて元通りにひもを締めた。
「私は馬鹿でした。」
誰にともなくつぶやく。
もう一度窓の外を見る。そこには相変わらずのトワイライト。
もう一度目を閉じる。そこには確かな勇気の光。
無意識に胸の前で指を組み、頭を垂れる。
胸の中には、不思議と勇気が満ちて温かくなってゆく。
「絶望などしなくていいのですね・・・貴方がいるから・・・」
ゼルダはそれだけ言うとすっと立ち上がり姿勢を正した。窓の外に広がるトワイライトをまっすぐに見つめそして 部屋の奥へと消えて行った。
fin
姫様だって時に不安なこともあると思うんです。
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