front of Store



しんしんと 空から白いものが降ってきた。
空は灰色に濁り、まだ昼間だとういのに町は夜のように暗くひんやりとしていた。
それでも 
てん てん てんと灯り始める街灯のオレンジ色は妙に 妙に優しくて。
しんしんと勢いを強め始める雪を気にしながら 急いで歩を進める人々の中。
ひとつの普通の人間としては小さすぎる影が店の前に浮いていた。
これまたオレンジ色の優しい光をあびながら その影―――ミドナは一人ショーウインドウの中を見つめ続ける。
目の前のショーウインドウの中にはバレンタインという今の時期に合わせ、色とりどりのチョコレートが並んでいる。
赤や緑やピンクやオレンジや・・・花の形やハートの形や動物の形や・・・
そんな いかにも心躍るようなチョコレートを見て、その小さな影は非常につまらなそうな顔を作っていた。
つまらなそう いや、どちらかというともう、今にも怒って叫びだしそうなそんな表情である。
 もともと愛らしいその顔はほおが大きく膨らみむしろ面白いような形に変形している。情熱的な赤い目はつり上がり不機嫌な様子をしっかりと物語っていた。
「ったく・・・リンクの大馬鹿野郎・・・」
無意識に口元から愚痴が流れ出る。
そのまま目を上げてその姿を探すとすぐに緑の衣に身を包んだその姿が目に映った。
いつもの恰好にいつもの聖剣と盾の装備。
片手には大きな袋。中には色とりどりの包みが収まっている。
ミドナはまた大きなため息を吐く。
今日は朝から本当に嫌な日だった。宿泊先の女店主から始まり城下町に住まうリンクのファンの女の子たち、商店街の店の店員、果ては例の自称虫さん王国のお姫様まで・・・
バレンタインだからといってウキウキした顔でリンクにチョコを渡してくる。
そのどれもをリンクはありがたがり、そして分け隔てない笑顔で受け取っていた。
「あ・・・」
ミドナは小さくそういうと、また苛々を隠せない顔でショーウインドウの中をのぞく。
窓越しのリンクはまた、この店の奥さんからチョコをもらっている。
「〜〜〜〜!!!」
この店の奥さんはテルマよりもっと年上で、旦那さんも子供もいる女性だ。もちろん付き合いの一環として手渡したのだろう。

 そんなこと百も承知。承知のはずなのに・・・
「・・・知らん!知らん知らん!」
ミドナは勢いよくショーウインドウに背を向けると頭を何度かぶんぶんふった。
リンクは見た目はまあ合格点だし、優しいし、人望もある。義理チョコを大量にもらうのは、当たり前のことなのに・・・。
なんだろう。リンクが誰かがチョコレートをもらうたびに嫉妬とも取れる感情が付き上がってくる。
「べっつに リンクが いっくらチョコもらったってしりませんよーーだ」
ミドナはわざと大声ではっきりくっきりとした口調で言ってみる。
目の前の少しカンがいい人数人がミドナのいるほうを振り向く。
「ふん!」
そんな奇異の視線をものともせずに、ミドナは心の赴くままに空へと舞いあがった。くるりん くるりんと浮き上がり漂いながら大きな声で叫ぶ。
「なんだよ!バレンタインなんかでウキウキしちゃってさ!チョコなんて、あんな甘ったるくて気持ち悪いもの食えたもんじゃないだろ!ふーーーんだ!」
「おーーいミドナ!?」
さらに叫んでやろうと胸いっぱいに息を吸い込んだ その時。
下の方から大きな声がかかった。ミドナは空中に停止し呼ばれた方に顔をむける。
リンクは両手でテルマに頼まれた大きな荷物を軽々と持ち両腕からさらに増えた数個の紙袋をぶら下げていた。
 かなりの重さになろうその荷物など何の問題もないようで。リンクはこちらに目を向けて余裕でニコニコしている。
「・・・」
ミドナは半眼でリンクを見下ろすと ふわり ふわり とわざとゆっくりと降りてきた。
リンクの目線とミドナの目線が同じ高さになったとき。リンクは小首をかしげミドナに聞いてきた。柔らかで穏やかで。そして優しい碧い瞳がミドナをとらえる。
「空に浮かんで、何をそんなに怒鳴り散らしていたの?」
「・・・・つ・・・」
ミドナはきり赤面しその場に凍りつく。
一部冷静なその頭が正直に理由をこたえると「まるで」嫉妬しているように見えると警笛をならす。
「・・・・えっと・・その・・・」
ミドナが両手の指を合わせながらもじもじしていると、リンクは本当にわからないという表情でまた少し首をかしげた。そしてはっとした表情をすると器用にバランスをとって一つの紙袋の中をごそごそ漁りだす。
「はい♪」
いまだにもじもじしているミドナの前に、一つの箱が差し出される。
それは先ほど入った店のショーウインドウに飾ってあったものの一つで。
「・・・なんだよ。これ・・・」
ミドナは驚いた顔をして差し出された箱を見つめる。
緑色の包装紙に金色の上品な装飾のされたそれはとても とてもきれいに見えて。
「なんだよって。今日はバレンタインだろ?好きな人にチョコレートをあげる日だ。」
「〜〜〜・・・」
ミドナは赤面しながらその包みを受け取る。
「・・・えっと・・・ワタシに?」
「ああ。」
「えっとバレンタインは女が男に・・・」
「そうなんだけど、男が女にプレゼントしてもいいっていう話だからさ・・・」
「えっと・・・そ、そっか・・・」
ミドナは無意識に口元をほころばせる。その笑顔を優しげに見つめるリンク。
リンクの笑顔を見上げてはっとして。すぐにそっぽを向くミドナ。
「さ・・・テルマさんが待ってる。早く行こう・・・」
リンクは踵を返して、薄く白くなり始めた道を歩き出す。
ミドナはいまだにもらった包みを真っ赤な顔をして見つめている。
頭の中ではぐるぐると先ほどのリンクの言葉が回り続けている。
「ミドナ!何してるの!?早く行かないと雪がひどくなるよ!」
リンクの声にハッとして。ミドナもその場を 店の前を立ち去った。


 





END